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東京高等裁判所 平成9年(行コ)24号 判決 1997年8月28日

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人東京都世田谷区議会議長が平成八年三月九日にした同区議会の「社会民主党世田谷区議団」幹事長(代表)高橋忍名義の同日付け会派解消届の受理処分を取り消す。

3 被控訴人東京都世田谷区議会議長が平成八年三月九日にした同区議会の「社会民主党世田谷区議団」幹事長(代表)高橋忍名義の同日付け会派結成及び役員届の受理処分を取り消す。

4 被控訴人東京都世田谷区長が平成八年四月五日にした前項の会派に対する政務調査研究費交付決定処分を取り消す。

3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文と同旨

第二  事案の概要等

本件の「事案の概要等」及び「争点に関する当事者の主張」は、以下のとおり当審における控訴人の主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第二、第三に記載のとおりであるから、これを引用する(略語についても、以下、原判決と同様とする。)。

(当審における控訴人の主張)

一 争点1について

1 原判決は、要するに、取消訴訟の対象となる行政庁の処分は、法律上の根拠があり、法律によってその要件及び効果等が定められているものでなければならないところ、先例は法律(成文法)ではなく、本件受理行為は、先例に基づいて要件及び効果等が定められているにすぎないから、本件受理行為は行政庁の処分とはいえない、と判示した。

しかしながら、本件受理行為に関する先例が法律ではないとする原判決の判断は誤りというべきであって、右先例は、単なる事実上の慣習に止まるものではなく、法律上の慣習にまで高められた慣習法、若しくは法律に準ずるものであるから、これに基づいてされた本件受理行為は、法律によって認められた行為、すなわち行政処分に該当するというべきである。

のみならず、今日、取消訴訟の救済機能を重視し、従来行政処分とは評価されなかった行政計画、契約、行政の内部的行為等の処分性が肯定されてきているのであって、原判決が、取消訴訟の対象となる行政庁の処分は、法律上の根拠があり、法律によってその要件及び効果等が定められているものでなければならないとする点は、狭きに失するというべきである。

そして、世田谷区議会においては、本件受理行為によって初めて、単なる一区議会議員から会派の所属議員としての地位及び権益を付与されることになるものであって、本件受理行為は、単なる事実の確認ではなく、会派の効力要件であるから、その処分性は明らかである。原判決は、この点について、本件受理行為は何らかの法的な効果を有するものと解すべき余地はないと判示するが、本件受理行為の実体ないし法的意味合いを理解しない独断である。

ちなみに、実体法上、団体の自主的消滅は、解散の用語を使用し、構成員に対する事前告知ないし集会の招集手続と構成員全体の集会における決議が要件とされているのであって、本件解消届にいう「解消」は、極めて曖昧な用語で実体法上の裏付けのない造語である。しかるに、控訴人を排除するために、会派の代表者の届出と被控訴人議長の受理のみによって成立する「解消」という右民主的ルールの実体を欠く不法な手続がとられたものであり、被控訴人議長は、単に本件受理行為を行っただけでなく、幹事長高橋忍と共謀して、右不当な、本件先例及び条理にも反する行為を行ったもので、その行為は違法である。

2 争点2について

原判決は、要するに、控訴人は新会派への本件交付に基づく研究費について、新会派議員としても、個人としても、その交付を求める地位にない以上、右取消を求める原告適格は存在しない、と判示した。

しかし、取消訴訟における処分の取消しに必要とされる法律上の利益とは、単に、行政庁により直接自己の権利利益を侵害された場合のみでなく、行政庁の処分によって不利益を受けた者のその不利益の性質、程度等被害の実態に着眼し、法的に保護するに値するか否かという観点から判断されるべきである。

そして、本件交付は、従来旧会派が交付を受けていた研究費の交付の権利ないし利益を奪うものであって、本件交付を取り消す以外に、控訴人が受けられなかった交付を受けることは不可能であるから、控訴人には保護に値する利益があるというべきである。

なお、原判決は、本件交付は民法上の贈与であるとし、被控訴人区長に交付するかしないかの意思決定の自由があると認定しているが、本件交付の実態を全く無視し、本件規程の解釈を誤るものである。本件交付の実態においても、被控訴人区長には会派に対して研究費を交付するか否かの意思決定を行う自由は存在しないし、本件規程の文言及びその内容からも、被控訴人区長に研究費を交付するか否かの裁量の余地は認められないことは明らかである。

したがって、原判決が右認定判断を前提として、本件交付に処分性もないとする点が誤りであることは明らかである。

また、原判決が、本件規程は内部準則を定めるにすぎないとする点も誤りである。本件規程は、適法な会派からの研究費の交付申請に対しては、研究費を交付すべき義務を定めたものであり、会派及びその所属する議員の研究費の交付に関する権利義務を直接規定し、またその手続的権利を定めたものである。

第三  証拠関係《略》

第四  当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の本件訴えはいずれも不適法であり却下すべきものと判断するが、その理由は、以下のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第四に記載のとおりであるから(ただし、原判決一七頁一行目の「右先例」を「右先例に基づく届出」と改める。)、これを引用する。

(当審における控訴人の主張に対する判断)

1 争点1について

控訴人は、本件受理行為は処分性を欠く行為であるとした原判決の認定判断は誤りである旨をるる主張する。

しかしながら、本件受理行為が、先例に基づき、議長が議会における事実関係を把握し、会派に対して種々の便宜を図ること等を目的とする事実上の届出を受理する行為であって、控訴人その他の者の法的地位に直接影響を及ぼすことはないものであることは、原判決の認定判断するとおりであり、したがって、本件受理行為の取消しを求める控訴人の訴えは不適法であるとした原判決の判断は相当であって、これに反する控訴人の右主張はいずれも採用できないものである。

2 争点2について

控訴人は、控訴人には本件交付の取消しを求める原告適格はないとした原判決の認定判断は誤りであると主張する。

しかしながら、控訴人は新会派に所属するものではなく、また個人として研究費の交付を受ける地位にはないのであって、新会派に対する研究費の交付が控訴人の権利、利益を侵害するものとはいえないし、新会派に対する研究費の交付が取り消されることで控訴人に当然に研究費が交付される関係にもないから、控訴人は本件交付の取消しを求める原告適格を有しないというべきであることは、原判決の認定判断するとおりであり、したがって、本件交付の取消しを求める控訴人の訴えは不適法であるとした原判決の判断は相当であって、これに反する控訴人の右主張はいずれも採用できないものである。

二  よって、控訴人の本件訴えをいずれも却下した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢崎秀一 裁判官 筏津順子)

裁判官 山崎健二は、転補につき、署名押印することができない。

(裁判長裁判官 矢崎秀一)

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